令和8年7月31日に開催された第15回「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」において、令和10年度の医学部臨時定員について、我が国全体として削減を図る方向性および医師偏在対策の具体策が示されました。18歳人口の減少を見据えた医学部定員の適正化や、改正医療法に基づく地域・診療科偏在の是正強化は、今後の医師確保・採用戦略を考える上で重要な政策変更になる可能性があります。本記事では、厚労省資料の要点と、医療機関経営者が直面する構造的リスク、そして今すぐ講じるべき実践的対応策を解説します。
1. 資料の背景と国の方針:医学部定員「削減」への明確なシフト
これまで医師不足対策として平成20年度以降拡大されてきた「医学部臨時定員」ですが、18歳人口の減少や将来的な医師需給の均衡見通しなどを踏まえ、今後は定員の適正化と地域に定着する医師の養成を両立させる段階に入っています。
- 地域の実情を適切に考慮しつつ、医師多数県等の一律の区分によらず、地域に定着する医師の養成に向けた取組を進めながら、医学部臨時定員の削減を図る方向性が示されています。
- 臨時定員の縮小に伴い、恒久定員内の地域枠・地元出身者枠などを活用した地域定着型の医師養成が、これまで以上に重要になります。医療機関にとっては、従来の大学医局からの派遣だけに依存するのではなく、地域枠医師を含めた中長期的な人材確保策を構築する必要性が高まります。
- 外来医師過多区域における新規無床診療所の開設について、事前届出や地域で不足する医療機能の提供に関する要請・勧告等の仕組みが導入され、地域の外来医療提供体制を踏まえた開業判断がより重要になります。
2. 厚労省資料から読み解く主なトピックスと経営リスク
| 検討項目 | 厚労省の方針と医療経営への実務影響 |
|---|---|
| 医学部定員の適正化 | 令和9年度に続き、令和10年度も医学部定員の適正化が進められる方向。特に令和10年度は、医学部臨時定員について我が国全体として削減を図る方向性が示されている。 |
| 医師確保計画・外来医療計画 | 都道府県による医師確保・外来医療提供体制の調整が強化される中、「外来医師過多区域」では、新規無床診療所の開設時に地域で不足する医療機能への対応が求められるなど、地域の医療提供体制を踏まえた開業判断の重要性が高まる。 |
| 診療科偏在への対策 | 診療科偏在の是正に向けた多面的な対策が進められる。医療機関においても、特定診療科の人員確保・維持コストと地域ニーズを踏まえた診療体制の見直しが必要となる可能性がある。 |
3. 医療機関経営者が打つべき「4つの実践的経営戦略」
医師養成数の適正化が進み、地域・診療科偏在への対策が強化される中、従来の「大学医局からの派遣頼み」や「条件引き上げ競争」だけに依存した採用手法では、今後の医師確保競争に対応しにくくなる可能性があります。経営基盤を守るため、以下の4点に直ちに着手する必要があります。
① 独自の医師採用ルート構築と地域枠医師の定着支援
医学部臨時定員の縮小や地域定着型の医師養成が進むことを見据え、特定の医局依存から脱却し、インターネット求人やダイレクトリクルーティングなど自力での医師獲得ルートを多角化させることが急務です。また、義務年限終了後の地域枠医師に対しては、単なる労働力としてではなく、充実した専門医取得支援やキャリアパスを提示できる環境を整え、定着率を高める必要があります。
② 自院が位置する医療圏・区域の政策上の位置づけを把握する
外来医師過多区域なのか、重点医師偏在対策支援区域なのかなど、自院が位置する医療圏・区域の政策上の位置づけを確認する必要があります。
③ コメディカルへのタスクシフトと省力化投資(DX)の徹底
医師数の単純増が望めない以上、医療生産性の向上が生命線となります。看護師や医療クラーク、薬剤師へのタスク・シフティングを一層推進するとともに、医師不足への対応として、国も業務効率化への支援等を進める方向を示しています。医療機関側では、この流れを踏まえ、AI問診、音声入力、医療クラークの活用など、医師の業務負担を軽減する投資を検討する必要があります。限られた医師のマンパワーを臨床のコア業務に集中させる体制を構築することが重要です。
④ 地域医療介護総合確保基金等の支援制度の戦略的活用
都道府県による医師確保・地域医療政策との連携が重要になる中、行政の医療政策や医師確保計画の策定プロセスに対し、自院の地域貢献の実績を適切にアピールしておくことが重要です。地域医療介護総合確保基金をはじめとする各種補助金や財政支援を的確に獲得し、経営資源の補強につなげます。
まとめ:量から「質・定着・効率」の経営転換へ
令和10年度に向けた医学部臨時定員の削減方針は、医療提供体制が、医師数の量的確保だけでなく、地域定着や偏在是正、業務効率化を組み合わせて医療資源を活用する方向へ転換しつつあることを示しています。経営者においては、単なる行政情報のキャッチアップにとどまらず、自院の機能再定義や採用・運営体制の抜本的な改革をスピード感を持って進めることが求められます。
厚生労働省「医師確保計画策定ガイドライン~第8次(後期)~」(令和8年6月30日)
厚生労働省「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」(令和8年5月28日)

