【経営分析】病床利用率が上がっても、赤字病院が減らない本当の理由

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【経営分析】病床利用率が上がっても、赤字病院が減らない本当の理由

未分類 2026.08.16

目次

  • ― 問題は「70%」ではなく、固定費を吸収できるか ―
  • 1.70%は「赤字の臨界点」ではない
  • 2.低稼働が赤字につながる理由 ― 配置基準という制約
  • 3.診療報酬改定だけでは解決しない
  • 4.固定費は「連続的」ではなく「階段状」に動く
  • 5.「病床を埋める」から「適正規模を考える」へ
  • 経営者が見るべき数字
  • まとめ
  • 出典

― 問題は「70%」ではなく、固定費を吸収できるか ―

厚生労働省「令和6(2024)年病院報告」によれば、全国の病床利用率は77.0%(前年比+1.4ポイント)、一般病床に限れば73.3%(同+2.5ポイント)、療養病床は85.0%(同+0.9ポイント)と、全国平均では上昇傾向にあります。

しかし、これはあくまで全国平均の数字です。二次医療圏単位で見れば、都市部を中心に患者数が回復している地域がある一方、人口減少が進む地域では低稼働が続いており、平均値だけでは見えない「地域間の二極化」が進んでいます。また、一般病床(急性期)と療養病床では稼働率の水準も課題の性質も異なり、両者を一括りに論じることはできません。病床規模と地域の医療需要のミスマッチは、こうした低稼働地域・低稼働病床において、病院経営上の重要な課題となっています。

この問題を「人口減少の結果」とだけ捉えると、本質を見誤ります。

問題は、患者数が減っても、病院の費用は同じスピードでは減らないことにあります。

1.70%は「赤字の臨界点」ではない

全国平均の病床利用率が77.0%まで回復した今も、これを下回る病院、特に70%を下回る病院は依然として少なくありません。

病床利用率70%は、公立病院改革などで「特に低水準」として用いられてきた一つの目安です。

ただし、70%を下回れば必ず赤字になるわけではありません。

同じ70%でも、

  • 病床数
  • 病床機能
  • 1日当たり入院単価
  • 患者の症例構成
  • 医師・看護師等の人員配置
  • 人件費
  • 設備・委託費

によって損益は大きく異なります。

さらに言えば、一般病床の70%と療養病床の70%では意味が違います。療養病床は全国平均で85.0%まで稼働しており、70%はすでに「低水準」を示します。一方、一般病床は全国平均でも73.3%であり、70%は必ずしも突出した低水準とは言えません。「70%」という一つの数字だけを見て評価すること自体に無理があります。

したがって、重要なのは「70%を超えたか」ではありません。

自院の費用構造から見て、何%の病床利用率があれば黒字を維持できるのか。

これを把握することが重要です。

2.低稼働が赤字につながる理由 ― 配置基準という制約

病院では、患者数が減っても短期的には削減しにくい費用が多くあります。

特に医師・看護師などの人件費、病棟設備、建物、医療機器、システムなどは、患者数の減少と同じ割合では減らせません。

そのため、

患者数減少
→ 医業収益減少
→ 固定費・準固定費が残る
→ 1患者当たりの費用負担が上昇
→ 利益率低下

という構造が生まれます。

ここで見落とされがちなのは、人件費が減らせない理由が単なる「雇用の硬直性」だけではなく、制度上の看護配置基準にあるという点です。入院基本料は7対1、10対1などの看護配置基準によって点数が決まっており、患者数が減っても、その基準を維持するためには一定数の看護師を配置し続ける必要があります。

つまり、稼働率が下がるほど、

「施設基準上、配置しなければならない人員」と「実際の患者ケアに必要な労働量」の乖離

が広がっていきます。これは病院経営者の努力だけでは解消できない、制度に組み込まれた硬直性です。低稼働病院が人件費を圧縮しようとする際、まず着手すべきは、現在の看護配置基準(施設基準)が自院の患者構成・稼働率に対して本当に妥当かどうかの見直しです。ダウングレード(例:7対1→10対1)によって収益単価は下がりますが、必要人員数も減るため、収支への影響は稼働率次第でプラスにもマイナスにもなり得ます。

つまり、問題は「低稼働」そのものではありません。

低稼働になったときに、費用構造(とりわけ施設基準に紐づく人件費構造)をどこまで見直せるかが問題なのです。

3.診療報酬改定だけでは解決しない

2026年度の診療報酬改定では、診療報酬本体が2026年度・2027年度の2年度平均で+3.09%となりました。

しかし、

「診療報酬が3.09%上がる=医業収益が3.09%増える」

という意味ではありません。

実際の収益は、患者数、診療単価、症例構成、施設基準、算定可能な加算などによって変わります。

特に患者数が減少している病院では、単価が上昇しても総収益の増加が限定的になる可能性があります。

つまり、

「単価を上げる」だけではなく、「患者数×単価」と「それを支える費用」の両方を見る必要があります。

4.固定費は「連続的」ではなく「階段状」に動く

損益分岐点分析を行う際、固定費を「一定の金額」として扱いがちですが、これは正確ではありません。実際の固定費は、病棟単位・部門単位で階段状(ステップ)に変化します。

例えば、稼働率が70%から65%に落ちても、病棟を維持している限り、夜勤体制や看護師配置はほとんど変わらず、人件費もほぼ変わりません。しかし、ある病棟(例えば40床)を丸ごと閉鎖する決断をした瞬間、その病棟に配置していた夜勤看護師・当直医師体制などの固定費が、まとまった単位で一気に減少します。

これが意味するのは、

稼働率をじわじわ改善する努力よりも、「どの病棟・どの単位を閉じれば、固定費がどれだけ減るか」を病棟別に試算する方が、経営判断としての実効性が高い

ということです。全体の稼働率だけを見ていると、この「どこで固定費が階段状に落ちるか」という構造が見えません。病棟別・診療科別に稼働率と固定費を分解して初めて、有効な意思決定ができます。

5.「病床を埋める」から「適正規模を考える」へ

低稼働病院を見ると、「もっと患者を集めよう」という議論になりやすい。

もちろん、紹介患者の増加、救急受入れ、地域連携の強化などは重要です。

しかし、人口減少が続く地域では、患者数を永続的に増やすことには限界があります。

その場合、

病床をどう埋めるか

だけではなく、

そもそも何床あれば地域需要に対して適正なのか

を考える必要があります。

この問いに対する客観的な出発点となるのが、都道府県が公表する地域医療構想の必要病床数推計です。自院の許可病床数と、自院が属する二次医療圏の必要病床数推計・病床機能報告データを照合することで、自院の病床が地域全体の中で構造的に過剰なのか、それとも不足しているのかを、感覚ではなく客観的な数字で判断できます。

例えば100床で50人を受け入れている病院は利用率50%ですが、50床に適正化すれば利用率は100%になります。このとき注目すべきは稼働率の数字ではなく、費用構造の変化です。仮に100床維持の固定費が8億円、50床適正化後の固定費が5億円に圧縮できるとすれば、1床当たり・1患者当たりの費用負担は大きく下がり、同じ患者数でも損益は改善します。つまり「病床を減らして利用率を上げる」こと自体に意味があるのではなく、「固定費をどこまで実際に削減できるか」が適正化の成否を分けます。

もちろん、病床削減には救急・災害時の受入れ能力など別の論点があります。また、「削減」だけが選択肢ではありません。実務上は、以下のような選択肢を組み合わせて検討することになります。

  • 病床機能の転換―急性期病床を地域包括ケア病棟や回復期病棟に転換することは、病床の「削減」ではなく「機能の変更」であり、心理的にも実務的にもハードルが下がります。地域の需要が急性期から回復期・在宅支援にシフトしている場合、転換によって稼働率と収益性を同時に改善できる可能性があります。
  • 病床削減に対する補助制度の活用―地域医療介護総合確保基金による病床削減支援など、病床数を適正化する際に活用できる公的な支援制度があります。削減を「純粋なコスト」としてではなく、制度を活用した経営判断として検討する余地があります。
  • 病院統合・再編―地域医療構想の議論の中で、複数医療機関の機能分担・統合が進むケースもあります。単独での適正化が難しい場合、地域全体での再編に参画するという選択肢もあります。

だからこそ、

地域医療に必要な空床と、構造的な余剰病床を区別すること

が重要になります。

経営者が見るべき数字

これからの病院経営では、病床利用率だけを見るべきではありません。

最低限、

  • 病床利用率(病床機能別)
  • 1日当たり入院単価
  • 1床当たり医業収益
  • 1床当たり人件費
  • 固定費・準固定費(病棟別・部門別)
  • 損益分岐病床利用率
  • 現在の利用率と損益分岐点との差
  • 自院の許可病床数と地域医療構想の必要病床数推計との差

を見る必要があります。

損益分岐病床利用率は、次の式で簡易的に試算できます。

損益分岐病床利用率 = 固定費 ÷(1床当たり年間収益単価 − 1床当たり変動費)÷ 病床数

【試算例】100床の病院で、

  • 年間固定費(人件費・設備費・委託費等):8億円
  • 1床当たり年間収益単価(満床稼働時):1,200万円
  • 1床当たり変動費(材料費・薬剤費等):300万円

の場合、

損益分岐病床利用率 = 8億円 ÷(1,200万円−300万円)÷ 100床 = 約89%

この病院が現在75%稼働であれば、損益分岐点まで14ポイントの開きがあり、赤字構造にあることが分かります。逆にこの数字を下げる方法は「収益単価を上げる」か「固定費を圧縮する」の2つしかなく、どちらに手を打つべきかが明確になります。

ただし、前述の通り固定費は病棟単位で階段状に変化するため、この「8億円」という数字も、病棟別に分解して初めて実効性のある打ち手が見えてきます。

特に重要なのは、

「病床利用率は何%か」ではなく、「損益分岐病床利用率をどれだけ上回っているか」

という視点です。

70%でも、損益分岐点が55%なら一定の余裕があります。

逆に80%でも、損益分岐点が75%なら、患者数の減少や人件費上昇に弱い。

まとめ

病床利用率は全国平均では改善傾向にありますが、これは地域間・病床機能間の実態の差を覆い隠している面もあります。低稼働に苦しむ病院にとって、問題は単なる人口減少ではありません。

本質は、

「患者数に応じて変化する収益」と「制度に組み込まれた、短期的には減らしにくい費用」のミスマッチ

にあります。

まず着手すべきは、次の4ステップです。

  1. 自院の固定費・変動費を病棟別・部門別に分解し、損益分岐病床利用率を算出する
  2. 現在の利用率との差(または余裕)を数値で把握する
  3. 看護配置基準の妥当性、病棟単位での固定費の「階段」を確認する
  4. 地域医療構想の必要病床数推計と照らし、「機能転換」「補助制度の活用」「統合・再編」を含めた適正化の選択肢を検討する

だからこそ、これからの病院経営では、

「病床をどう埋めるか」から「地域の需要に対して、どの規模・どの機能・どの費用構造で運営するか」へ

視点を変える必要があります。

70%という数字そのものを追うのではなく、自院の損益分岐病床利用率と、その裏にある費用構造・制度上の制約を把握すること。

それが、低稼働時代の病院経営を考える出発点になります。

出典

※本稿における「損益分岐病床利用率」は、病床利用率そのものを一律の経営基準とするものではなく、自院の収益単価、病床規模、変動費、固定費等から算出する経営管理上の指標として用いています。
※病床機能の転換・削減に関する補助制度、地域医療構想の必要病床数推計等の詳細は、都道府県ごとに内容・実施状況が異なるため、実際の活用にあたっては所轄の都道府県担当部局・地域医療構想調整会議等に個別にご確認ください。

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